広島地方裁判所 昭和35年(行)2号 判決 1966年5月16日
山口県萩市大字土原四〇〇番地
原告
松原喜美枝
広島市基町一番地
被告
広島国税局長 堀込聰夫
右指定代理人
川本権祐
同
中田武夫
同
中本兼三
右当事者間の昭和三五年(行)第二号贈与税審査決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が昭和三四年一〇月一五日原告に対してなした審査請求棄却決定を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
一、訴外萩税務署長は、昭和三三年一一月二八日原告に対し、原告が昭和三一年七月二八日訴外松原定雄から一五〇、〇〇〇円相当の財産の贈与を受けたとして、原告の昭和三一年度分の受贈による取得財産価格を一五〇、〇〇〇円とする旨決定し、同日その旨の通知をした。
二、原告はこれを不服として昭和三三年一二月二三日同税務署長に対し再調査の請求をしたところ、同税務署長は、昭昭三四年三月一八日右再調査の請求を棄却するとの決定をし、この通知書は、その頃原告に到達した。
三、そこで原告は、同年四月五日被告に対し右決定につき審査の請求をしたところ、被告は同年一〇月一五日この審査請求を理由なしとして棄却する旨の決定をなし、その通知はその頃原告に到達した。
四、しかしながら原告は、松原定雄から前記のような贈与を受けたことはないから、原告の審査請求を棄却して萩税務署長の原処分を維持した被告の決定は、違法である。
よつて原告は、その取消を求めるため本訴に及ぶ。
と述べ、被告の主張に対して、次のとおり述べた。
被告主張事実中、原告が昭和三一年七月二八日訴外有限会社ハンドヤ商会の設立に際し、出資額一五〇、〇〇〇円の出資者となつたことは認めるが、これは、原告が松原定雄から金一五〇、〇〇〇円を借り受けて、右訴外会社に払い込んだものであつて、贈与を受けたものではない。
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。
一、請求原因第一項ないし第三項の事実は認める。
二、第四項は争う。すなわち、原告は、昭和三一年七月二八日訴外有限会社ハンドヤ商会の設立に際し、その資本金八〇〇、〇〇〇円のうち一五〇、〇〇〇円の出資者となつている。ところで右訴外会社の設立に際し、原告の父である訴外松原定雄は、訴外萩信用金庫から金八〇〇、〇〇〇円を借用し、これを払込んで設立登記を了し、その後訴外会社が松原定雄から右金員をもつて商品を仕入れたことにして、八〇〇、〇〇〇円の萩信用金庫に返済した。
したがつて、原告が右出資金のうち一五〇、〇〇〇円を取得したことは、とりもなおさず松原定雄から一五〇、〇〇〇円相当の財産の贈与を受けたことにほかならない。
よつて即告が松原定雄から一五〇、〇〇〇円相当の贈与を受けたものと認めた本件原処分は相当であり、これを維持して審査請求を棄却した被告の本件決定には、何ら違法な点はなく、原告の本訴請求は、失当である。
立証として、原告は甲第一ないし第六号証、第七ないし第九号証の各一、二を提出し、乙号各証の成立を認めると述べた。被告指定代理人は、乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三、四号証の各一ないし五、第五ないし第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九ないし第一一号証の各一、二、第一二号証の一ないし三、第一三、一四号証の各一、二、第一五号証の一ないし五、第一六号証の一、二、第一七号証の一ないし三、第一八ないし第二〇号証の各一、二、第二一号証の一ないし五、第二二号証の一ないし三、第二二号証の一ないし五、第二四号証の一、二、第二五、二六号証の各一ないし四、第二七号証の一ないし一〇、第二八号証の一ないし五、第二九号証の一、二、第三〇ないし第三三号証を提出し、証人村岡淳、同渡辺俊隆、同有藤俊郎の各証言を援用し、甲第六号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。
理由
原告主張の各前審手続を経由したこと、原告が昭和三一年七月二八日訴外有限会社ハンドヤ商会の設立に際し、出資額一五〇、〇〇〇円の出資者になつていることは、当事者間に争いがない。ところで、右出資金一五〇、〇〇〇円について、原告は訴外松原定雄からこれを借り受けた上、出資金として払い込んだものである旨主張し、被告は、原告が松原定雄から一五〇、〇〇〇円相当の財産の贈与を受けたものである旨主張するのでこの点について考えてみるに、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、同第四号証の一ないし五、同第三〇、三一号証及び証人村岡淳、同渡辺俊隆の各証言によれば、松原定雄は、もともと個人で建築資材の販売業を営んでいたが、これを法人組織に切り替え、昭和三一年七月二八日資本金八〇〇、〇〇〇円の有限会社ハンドヤ商会を設立したこと、その直前、右出資金にあてるため、松原定雄は、萩信用金庫から金八〇〇、〇〇〇円借り受け、山口銀行萩支店に預金してその準備をしたこと原告は、松原定雄の娘であつて、学校卒業後は父の経営する旅館の手伝をしていたが、右有限会社設立前には父と別個の所得はなく、資産もなく、右のような出資金を払い込む資力のなかつたことが認められる。以上の事実に弁論の全趣旨を綜合すると、原告の右出資金一五〇、〇〇〇円は、原告の父である松原定雄からの贈与によるものであると認めることができる。この認定に反する甲第二号証同第四号証、同第六号証、同第七、八号証の各一、二、乙第二八号証の四、五、の記載は、前掲各証拠及びその他の乙号各証に照らし措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうしてみると、他の違法事由の存在につき特段の主張立証なき本件においては、原告の審査請求を棄却して原処分を維持した被告の決定は適法なものというべきである。
よつて原告の本訴請求は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 雑賀飛竜 裁判官 河村直樹 裁判官原田博司は、転任のため署名捺印できない。裁判官 雑賀飛竜)